Uターンで始めた
「おてがみカフェ」

「綾部でもいちばんの田舎です(笑)」。美しい里山の景色が広がる上林から、若狭へ抜ける府道1号線沿いに建つ古民家が、2年前、可愛らしいカフェへと生まれ変わった。 「カフェ十おてがみamuamu」には、舞鶴や福知山から若者たちもはるばるやってくるのだそう。取材当日も、店内に置かれた便箋と封筒を選んで、若い女性がのんびりと手紙を書いていた。「せっかく田舎にあるカフェだから、ごろ寝も大歓迎です。手紙でも書いて、ゆっくりしてもらいたいなって」。店内を動き回る小さなお子様をお断りしているのも、田舎の自然に囲まれ、静かな時間を過ごしてほしいとの思いからだ。

ここで生まれ育ち、今もカフェの奥を住居としている店主の藤原さんは、地元の高校を卒業後、田舎を離れて宇治の短大で栄養士の資格を取得。大阪に移ってアルバイトを続けるも、29歳で大きな転機が訪れる。「転職して正社員になろうとした矢先に東日本大震災が起こったんです」。さらに、震災からほどなく、父親の死という大きな悲しみに直面する。将来の安定だけを求めた転職活動に見切りをつけて、生まれ育った上林へと戻った彼女は、自分ひとりでカフェを開く決意をする。

「絶対帰ってこないと思ってたんですけどね、出たくて仕方なかった田舎に、今は癒されています(笑)」。手紙を書くお客さんをぼんやりと眺め、「実は、私が24歳の時に亡くなった母は珈琲が好きで、父は郵便局員だったんです。おてがみカフェにしたのは、なんとなく両親が側にいてくれる気がして」。涙を少し浮かべ、こっそりと教えてくれた。

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